人員計画で最初に決めるべきなのは、「来期は何人採用したいか」ではありません。
先に整理したいのは、業務上は何人必要なのか、経営として何人まで雇えるのか、現在の人員との差をどう埋めるのかという3点です。
現場から必要人数を積み上げると13人必要でも、売上・利益・人件費予算から考えると10人までしか雇えないことがあります。反対に、人件費予算だけを優先して人数を絞れば、現場の業務が回らなくなることもあります。
中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも、人員計画では必要な業務を明確にし、必要人員を算出したうえで人件費を見積もり、作業時間・作業量と販売計画の整合を確認する考え方が示されています。
この記事では、中小企業が人員計画・要員計画を作るときに、「必要人数」と「雇える人数」を別々に計算し、その差を採用だけで埋めないための考え方を整理します。
この記事でわかること
- 人員計画・要員計画で最初に決めること
- 業務量から必要人数を考える方法
- 人件費予算から雇える人数を考える方法
- 「必要13人・雇える10人」のように差が出た場合の考え方
- 必要人数から外部採用人数へ落とす方法
- 中小企業向けの簡易人員計画テンプレート
人員計画・要員計画とは
人員計画は、会社の事業計画を実行するために、どの業務へどの程度の人員が必要かを考え、採用・配置・人件費などへ落とし込むための計画です。
J-Net21の「人員計画の書き方」では、まず事業に必要な業務を洗い出し、それぞれの業務に必要な人員を考え、その後に人件費を算出する流れが示されています。また、人員を積み上げるだけでは人数が多くなりやすいため、作業時間や作業量を検討し、販売計画とも整合させることが重要とされています。
「人員計画」と「要員計画」は厳密に分けすぎなくてよい
人員計画、要員計画、定員計画、人員配置計画、採用計画など、似た用語はいくつもあります。
ただし、これらには企業をまたいだ厳密な共通定義があるわけではありません。実際、HRサービス各社の解説でも用語の使い方には違いがあります。
そのため本記事では、用語の違いを細かく定義することより、事業に必要な人数を考え、経営上の制約とすり合わせ、採用・配置へ具体化する一連の計画を扱います。
中小企業では「人が足りない」だけで採用人数を決めない
人手不足は、中小企業にとって大きな経営課題です。
2026年版中小企業白書では、労働供給制約社会の到来を重要な経営環境として捉え、労働生産性の向上や人材確保・活用を大きなテーマとして扱っています。また、労働投入量の最適化について、従業員数だけではなく、付加価値額との関係や省力化投資、AI活用・デジタル化なども分析されています。
つまり、人手不足への対応を考えるときも、選択肢は単純な増員だけではありません。
- 本当に必要な業務なのか
- 業務量を減らせないか
- 配置を変えられないか
- 外部へ出せる業務はないか
- 人を増やすなら人件費を継続して負担できるか
- 増員以上に付加価値を増やせるか
こうした検討をしたうえで、なお社内に必要な人員を確保できない部分を採用へつなげる方が、人員計画と採用計画を分けて考えやすくなります。
厚生労働省が掲載する中小企業の雇用管理改善に関する基本指針でも、「中長期的な経営の見通しに立った要員算定に基づく採用計画」という考え方が示されています。資料自体は古いため現在の統計として使うものではありませんが、採用計画の前に要員を算定するという関係を考えるうえでは参考になります。
必要人数は「現場」と「経営」の2方向から考える
人員計画で重要なのは、1つの計算だけで「適正人数」を決めようとしないことです。
ここでは、現場から見た必要人数と、経営から見た雇える人数を分けて考えます。
現場から考える|業務量から必要人数を積み上げる
現場側では、事業計画を実行するために必要な業務量から人数を積み上げます。
簡易的には、次のように整理できます。
必要人数の目安 = 業務に必要な総労働時間 ÷ 1人が投入できる労働時間
これは公的な標準公式ではなく、業務量から必要人数を考えるための簡易式です。
PERSOLも、ボトムアップ方式として、総労働時間を1人あたりの労働時間で割る考え方を紹介しています。
ただし、業務量、繁閑、休暇、教育時間、管理業務などによって実際に投入できる時間は変わるため、単純な所定労働時間をそのまま使えばよいとは限りません。
経営から考える|人件費予算から雇える人数を逆算する
現場で13人必要だとしても、会社が13人分の人件費を負担できなければ、そのまま採用することはできません。
そこで経営側では、売上計画、経費、目標利益、人件費予算から、会社として負担できる人数を考えます。
雇える人数の目安 = 人件費に使える年間予算 ÷ 1人あたり年間人件費
こちらも当サイトで説明しやすいよう簡略化した式です。
PERSOLでは、売上高から人件費以外の経費と目標利益を差し引き、そこから1人あたり人件費で人数を逆算するトップダウン方式を紹介しています。
ただし、経営側の計算だけで人数を決めると、現場に必要な人員が不足する可能性があります。
どちらか一方だけで「適正人数」を決めない
現場側の積み上げには、必要以上の余裕や現状業務の非効率が含まれることがあります。
一方、経営側の予算だけで人数を決めれば、業務量に対して人員が不足することがあります。
したがって、人員計画では、「必要人数」と「雇える人数」を両方出したうえで、その差自体を経営課題として扱うことが重要です。
独自試算|業務では13人必要、経営上は10人までの場合
ここからは、考え方を具体化するため、架空の中小企業を例に試算します。
以下の数字は市場平均や適正値ではありません。人員計画の考え方を説明するために当サイトが設定した仮定です。
当サイトにおける独自試算の考え方については、数値・データの取り扱い方でも整理しています。
| 項目 | 仮定 |
|---|---|
| 年間の必要業務量 | 18,200時間 |
| 1人が年間に投入できる時間 | 1,400時間 |
| 人件費に使える年間予算 | 7,200万円 |
| 1人あたり年間人件費 | 720万円 |
現場側の計算は、
18,200時間 ÷ 1,400時間 = 13人
です。
一方、経営側の計算は、
7,200万円 ÷ 720万円 = 10人
となります。
| 算定方法 | 人数 |
|---|---|
| 業務量から見た必要人数 | 13人 |
| 経営上雇える人数 | 10人 |
| ギャップ | 3人 |
この会社にとって重要なのは、「13人か10人か、どちらが正しいか」を決めることではありません。
3人分のギャップをどう処理するかが、人員計画の中心的な経営判断になります。
人員計画を作る7ステップ
STEP1|事業計画・売上計画を確認する
最初に確認するのは、来期に何人欲しいかではなく、会社として何を実現しようとしているのかです。
- 売上をどこまで増やすのか
- 新規事業や新店舗を始めるのか
- 生産量・案件数をどの程度増やすのか
- 新たに必要になる業務は何か
- 既存事業を縮小・終了する部分はないか
J-Net21でも、事業の拡大に伴って発生する業務をあらかじめ含めて考え、販売計画と人員数を整合させる考え方が示されています。
STEP2|現在の人員を確認する
次に、現在どの部門・職種へ何人配置されているのかを確認します。
- 部門・職種別の在籍人数
- 正社員・短時間勤務・パート等の雇用形態
- 退職予定
- 定年・休職等の見込み
- 異動予定
- 不足しているスキル・役割
短時間勤務者やパート等が多い場合は、実人数だけでなく勤務時間も併せて確認した方が実態を捉えやすい場合があります。
STEP3|業務量から必要人数を出す
必要業務を分解し、業務量・作業時間から必要人数を積み上げます。
このとき、現在行っている業務をそのまま前提にしないことも重要です。
- なくせる業務はないか
- 頻度を下げられないか
- 標準化できないか
- IT・AI・設備等で削減できないか
- 繁忙期だけ必要な業務ではないか
まで確認したうえで、必要な業務量を見積もります。
STEP4|人件費予算から人数上限を出す
業務上必要な人数とは別に、会社が継続的に負担できる人数を計算します。
ここで使う1人あたり年間人件費は、単純な月給ではなく、会社が人員計画上使っている年間コストを使う方が適しています。
なお、給与、賞与、会社負担の社会保険・労働保険等を含めた1人あたり年間コストは、社員を1人雇うと会社はいくら負担する?年間人件費と必要売上の考え方で2026年度料率を使って詳しく計算しています。本記事では、そこで把握した1人あたり年間人件費を、人員計画の入力値として使います。
STEP5|必要人数・雇える人数・現在人員を比較する
ここで初めて、次の3つの数字を横並びにします。
- 業務上必要な人数
- 経営上雇える人数
- 現在確保できる人数
この3つが一致しないこと自体は問題ではありません。
むしろ、人員計画の役割は差を見えるようにすることにあります。
STEP6|ギャップの埋め方を決める
必要人数が雇える人数を上回った場合、すぐに「予算を超えて採用する」か「現場に我慢してもらう」かの二択にする必要はありません。
人事・経営企画の両方から見ると、少なくとも次の選択肢を一度並べると判断しやすくなります。
- 本当に必要な業務か確認する
- 業務量・作業時間を減らせないか確認する
- 既存人員の配置変更や育成で補えないか確認する
- 短時間人材・副業人材・アウトソーシング等で一部を補えないか確認する
- 採用時期を分散できないか確認する
- 価格・売上・付加価値を改善し、人件費原資を増やせないか検討する
- それでも不足する人数を外部採用する
この7項目の順序は、公的に定められた手順ではなく、当サイトで人員・コスト・経営成果をつなげて判断するために整理したものです。
一方で、既存社員の能力開発、外部リソースの活用、採用などを要員調整の選択肢として考えること自体は、既存の要員計画の考え方とも整合します。
STEP7|外部採用が必要な人数だけ採用計画へ渡す
最後に、内部配置、育成、業務改善、外部委託等を踏まえても不足する人数を、外部採用の対象として確定します。
ここから先の、求人媒体、人材紹介、応募数、選考歩留まり、内定承諾率などは採用計画の領域です。
人員計画と採用計画を分けることで、「人が足りないから求人を出す」状態から、「必要人数が明確だから必要な採用活動をする」状態へ変えやすくなります。
「必要13人・雇える10人」ならどう調整するか
先ほどの仮想企業では、業務量からは13人、経営上は10人という3人のギャップがありました。
たとえば、次のような検討が考えられます。
| 確認 | 考え方の例 |
|---|---|
| 業務削減 | 低付加価値業務、重複業務、過剰な会議・報告等を減らせないか |
| 業務改善 | 標準化、システム化、AI・設備等で必要時間を減らせないか |
| 配置 | 他部門の余力、人材育成、役割再設計で補えないか |
| 外部化 | 定型業務や専門業務の一部を外注できないか |
| 時期 | 13人を一度に揃えず、事業進捗に応じて段階的に増員できないか |
| 原資 | 価格、商品構成、生産性等を見直し、人件費を負担できる付加価値を増やせないか |
| 採用 | 上記を確認しても残る不足人数を採用対象とする |
重要なのは、3人のギャップをそのまま「採用3人」と読み替えないことです。
業務そのものを減らせれば必要人数が変わります。既存社員を配置できれば外部採用数が変わります。外部委託が合理的な業務なら、正社員として抱える人数も変わります。
反対に、将来の売上や付加価値を考えれば、経営側の人件費予算を見直すべき場合もあります。
「現場の13人」と「経営の10人」のどちらかを機械的に正解にするのではなく、なぜ差が出ているのかを分解することが、人員計画を経営判断として使うポイントです。
必要人数と採用人数は同じではない
人員計画で最終的に10人必要と決まったとしても、採用人数が10人になるわけではありません。
たとえば、採用時点に向けて次の状態を想定します。
| 目標人員 | 10人 |
|---|---|
| 現在人員 | 8人 |
| 他部門からの異動予定 | +1人 |
| 退職予定 | -1人 |
採用時点まで社内で確保できる見込みは、
8人 + 1人 - 1人 = 8人
です。
したがって、外部から確保する必要がある人数は、
10人 - 8人 = 2人
となります。
実際には、退職時期、異動時期、育成期間、採用までの期間なども考慮する必要がありますが、必要人数と外部採用人数を分けて考えるという基本は同じです。
中小企業向け人員計画テンプレート
人員計画は、複雑なシステムがなくても、最初は1枚の表にまとめられます。
当サイトでは、少なくとも次の項目を並べることをおすすめします。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 部門・職種 | 営業、製造、事務、専門職など |
| 事業目標 | 売上、案件数、生産量、店舗数など |
| 現在人員 | 現在確保できている人数 |
| 減員予定 | 退職、定年、休職、異動など |
| 業務量から必要な人数 | ボトムアップで算定 |
| 経営上雇える人数 | 人件費予算から算定 |
| ギャップ | 必要人数と雇える人数の差 |
| 対応策 | 改善、配置、育成、外注、採用等 |
| 外部採用人数 | 最終的に社外から確保する人数 |
| 必要時期 | いつまでに必要か |
| 想定年間人件費 | 計画上の人件費総額 |
これは公的な標準様式ではなく、「人と経営の数字」が、人員・コスト・採用を一つの表で確認するために整理した簡易テンプレートです。
人員計画でよくある5つの失敗
1.退職者と同じ人数をそのまま補充する
1人辞めたから1人採る、という判断が常に合理的とは限りません。
退職前と現在で、業務量、システム、組織体制、求める役割が変わっている可能性があります。
2.現場の希望人数だけを足し上げる
各部門が余裕を持った人数を希望すれば、全社で見た人員数は膨らみやすくなります。
J-Net21でも、人員を積み上げると多くなりがちであるため、作業時間・作業量と販売計画との整合を見ることが重要とされています。
3.人件費予算だけで人数を決める
反対に、予算だけから人数を決めると、事業計画を実行するための労働力が足りなくなることがあります。
だからこそ、トップダウンとボトムアップの両方を見る必要があります。
4.他社平均を「自社の適正人数」にする
同じ売上規模や業界でも、業務範囲、外注比率、自動化、雇用形態、商品構成などが違えば必要人数は変わります。
他社平均は比較材料にはなりますが、自社の必要人数を直接決める数字ではありません。
5.年度初めに作ったまま見直さない
事業計画や受注状況が変われば、必要人数も変わります。
人員計画は一度作って終わりではなく、実績とのずれを確認しながら更新する前提で運用した方が実務的です。
人員計画はどのくらいの頻度で見直すか
「年1回見直せばよい」と全国共通で決められているわけではありません。
年度計画に合わせて定期的に確認しつつ、次のような大きな変化があった場合は途中でも見直す方がよいでしょう。
- 売上計画・利益計画の大幅な変更
- 大型受注・大型失注
- 新規事業・新店舗等の開始
- 大きな退職・休職・異動
- 業務プロセスやシステムの変更
- 給与水準・人件費予算の大きな変更
重要なのは、カレンダー上の更新頻度より、人員計画の前提が変わったときに計画を見直すことです。
計画した人数を採用できたか、採用した人が定着したか、人件費に見合う付加価値を生み出せたかは、経営者・人事が確認したい人事KPI一覧で、人員・採用・人件費・離職・生産性をつなげて確認する方法を整理しています。
まとめ|必要人数・雇える人数・採用人数は分けて考える
中小企業の人員計画では、次の3つを分けて考えると整理しやすくなります。
- 業務上必要な人数:事業計画と業務量から考える
- 経営上雇える人数:売上・利益・人件費予算から考える
- 最終的に外部採用する人数:配置、育成、減員予定、外部化等を踏まえて決める
業務上13人必要なのに、経営上10人までしか雇えないのであれば、その3人分の差こそが経営として検討すべきテーマです。
業務改善で必要時間を減らすのか、配置を変えるのか、外部リソースを使うのか、人件費原資を増やすのか。それでも不足する部分を採用するのか。
人員計画は「何人採るか」を決めるだけの作業ではありません。事業に必要な人材を、会社が持続可能な形でどう確保するかを決めるための経営計画です。
人員計画を作る際は、必要人数、雇える人数、現在人員を同じ表に置き、その差を見える状態にするところから始めてみてください。
次に読む:人員計画で必要人数を決めたら、次は1人を雇う年間コストを確認し、会社として何人まで負担できるかを数字に落とします。