人事KPIは、多ければよいわけではありません。
採用人数、応募者数、離職率、残業時間、有給休暇取得率、研修時間、エンゲージメントなど、人事では多くの数字を集計できます。しかし、測れる数字をすべて追いかけても、何の経営課題を改善するための数字なのかが明確でなければ、管理項目が増えるだけになりかねません。
2026年3月に改訂された「人的資本可視化指針」でも、人的資本に関する情報を単独で並べるのではなく、経営戦略と連動した人材戦略や人的資本投資を検討する流れが整理されています。
一次資料:内閣官房「人的資本可視化指針」の改訂について(2026年3月23日)
本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が最初に確認したい指標を、人員・採用・人件費・離職・定着・生産性の5領域、10KPIに絞って整理します。
重要なのは、10個すべての数字を毎月同じ重さで追うことではありません。自社の経営課題に応じて、見るKPIを選び、定義を固定し、前期・目標・実績を比較できるようにすることです。
この記事でわかること
- 人事KPIを経営課題から選ぶ考え方
- 最初に確認したい10の人事KPI
- 各KPIの計算式・定義・独自計算例
- 厚生労働省の離職率・欠員率と自社KPIを比較するときの注意点
- 2026年8月31日公表の2025年雇用動向調査年計の使い方
- 人員・採用・定着・人件費・生産性を一本の流れで見る方法
- 中小企業向け人事KPI管理表とKPI定義表
人事KPIは「測れる数字」ではなく「経営課題から選ぶ」
KPIは、単に集計できる数字の一覧ではありません。
たとえば毎月離職率を集計していても、「なぜ離職率を見るのか」「どの状態まで改善したいのか」「改善した結果、経営上どの問題を解消したいのか」が決まっていなければ、数字を記録しているだけになってしまいます。
反対に、経営課題が「必要な人員を確保できず、売上機会を失っている」であれば、必要人員ギャップ、採用充足率、採用リードタイム、早期定着率などを見る理由が明確になります。
KPIを多く設定すればよいわけではない
人事部門で把握できる数字をすべてKPI化すると、集計・報告そのものが仕事になりやすくなります。
本記事では、まず次の順番で考えることをおすすめします。
- 会社として解決したい経営課題を確認する
- その課題に関係する人材・組織上の問題を整理する
- 問題の変化を確認できる数字を選ぶ
- 計算式・分母・対象者・期間を固定する
- 現在値と目標値を置く
- 定期的に確認し、行動へつなげる
2026年版人的資本可視化指針も経営戦略との連動を重視している
2026年3月23日に改訂された「人的資本可視化指針」では、経営戦略と連動した人材戦略、人的資本投資を検討する流れや、企業と投資家の対話に有用な人的資本情報・指標の考え方が整理されています。
ただし、この指針は本記事で紹介する10KPIを中小企業に義務付けるものではありません。
本記事では、同指針の「経営戦略と人材戦略をつなげて考える」という方向性を参考にしながら、中小企業が日常の経営管理で使いやすい指標を独自に整理しています。
独自KPIほど定義・計算方法を固定する
人事KPIでは、同じ名称でも会社によって計算方法が違うことがあります。
たとえば「採用単価」であれば、求人広告・人材紹介などの外部支出だけを含むのか、採用担当者や面接担当者の社内工数まで含むのかで数字は変わります。
離職率も、期首人数を分母にするのか、平均在籍人数を分母にするのかで結果が変わります。
そのため当サイトでは、独自KPIを使用する場合、名称だけでなく、定義・計算式・分子・分母・対象期間・対象者を固定することを重視します。
当サイトの数値・データに関する共通ルールは、数値・データの取り扱い方でも整理しています。
まず確認したい人事KPI10選
本記事で中核にする10KPIは次のとおりです。
| No. | 領域 | KPI | 何を確認するか | 定義区分 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 人員 | 必要人員ギャップ | 計画に対して何人不足しているか | 当サイト管理用定義 |
| 2 | 人員 | 欠員率 | 現在の未充足求人の大きさ | 厚労省定義ベース |
| 3 | 採用 | 採用充足率 | 採用計画の達成度 | 当サイト管理用定義 |
| 4 | 採用 | 1人あたり採用コスト | 1人の入社にいくら使ったか | 当サイト管理用定義 |
| 5 | 採用 | 採用リードタイム | 人材確保にどれだけ時間がかかったか | 当サイト管理用定義 |
| 6 | 人件費 | 1人あたり年間人件費 | 人員1人あたりの平均コスト | 当サイト管理用定義 |
| 7 | 人件費 | 人件費率 | 売上高に対する人件費の負担 | 経営管理指標 |
| 8 | 離職・定着 | 離職率 | 人材流出の状況 | 厚労省比較用定義 |
| 9 | 離職・定着 | 早期定着率 | 採用した人材が一定期間残っているか | 当サイト管理用定義 |
| 10 | 生産性 | 労働生産性 | 人員が生み出す付加価値 | 公的統計と整合 |
10個すべてに一律の目標を置く必要はありません。後半で、経営課題ごとに優先するKPIの組み合わせを整理します。
人員を見るKPI
1.必要人員ギャップ|計画に対して何人足りないか
必要人員ギャップは、当サイトが人員計画の進捗を見るために使用する管理用指標です。
必要人員ギャップ = 計画上必要な人数 - 計画時点で確保できる見込み人数
たとえば、来期に必要な人数が10人、現在の在籍者・配置予定者等を含めて確保できる見込みが8人なら、
10人 - 8人 = 2人不足
です。
この「2人」をそのまま採用人数と考えるのではなく、配置変更、育成、業務改善、外部委託等を検討したうえで、外部から採用する必要人数を確定します。
必要人数の算定と「必要人数」と「雇える人数」の調整方法は、中小企業の人員計画・要員計画の立て方で詳しく整理しています。
必要人員ギャップは公的に定められた標準KPIではありません。本記事では、自社の人員計画を追うための管理用指標として定義しています。
2.欠員率|現在の未充足求人を人員規模と比べる
厚生労働省「雇用動向調査」では、「未充足求人」を、仕事があるにもかかわらず、その仕事に従事する人がおらず、その欠員を補充するために行っている求人と定義しています。
また、欠員率は常用労働者数に対する未充足求人数の割合として算出されています。
一次資料:厚生労働省「雇用動向調査:調査の結果・用語の解説」
欠員率 = 未充足求人数 ÷ 常用労働者数 × 100
たとえば、常用労働者100人に対して未充足求人が4人分なら、
4人 ÷ 100人 × 100 = 4.0%
です。
必要人員ギャップと欠員率は同じではない
必要人員ギャップと欠員率は、どちらも「人が足りない状態」を見る指標ですが、同じではありません。
| 必要人員ギャップ | 欠員率 | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 将来の人員計画を管理する | 現在の未充足求人の程度を見る |
| 将来増員 | 含められる | 未充足求人になっていなければ同じ意味ではない |
| 表し方 | 人数 | 割合 |
| 本記事での扱い | 当サイト独自管理指標 | 厚労省定義ベース |
たとえば半年後の新店舗開設に向けて5人増員する必要があっても、まだ求人を開始しておらず現在の欠員ではない場合、厚労省の未充足求人と同じ概念として扱うべきではありません。
採用を見るKPI
3.採用充足率|採用計画をどこまで達成したか
採用充足率は、本記事では次のように定義します。
採用充足率 = 実際に入社した人数 ÷ 採用計画人数 × 100
採用計画5人に対し、実際に4人が入社した場合は、
4人 ÷ 5人 × 100 = 80%
です。
内定人数ではなく、実際の入社人数を分子にすることで、「採用計画として必要だった人数を何人確保できたか」を確認します。
なお、採用充足率が100%を超えれば必ず良いわけではありません。必要人数以上に採用すれば、人件費過多や配置上の問題につながる可能性があります。
採用充足率は本記事の管理用定義です。社内で使用する場合は、採用計画人数・入社人数の対象期間や対象職種を固定してください。
4.1人あたり採用コスト|1人の入社にいくら使ったか
1人あたり採用コストは、次のように計算します。
1人あたり採用コスト = 定義した採用コスト総額 ÷ 実際の入社人数
たとえば、求人広告、人材紹介、採用管理システム、採用イベント等の外部支出が合計240万円で、4人が入社した場合は、
240万円 ÷ 4人 = 60万円/人
となります。
ただし、採用コストには二つの考え方があります。
- 外部支出ベース:求人広告、人材紹介、ATS、採用イベント等
- 社内工数込み:上記に採用担当者・面接担当者等の人件費や工数を加える
外部支出だけで60万円/人と算出した会社と、社内工数まで含めて60万円/人と算出した会社を、そのまま横並びにはできません。
したがって、採用コストでは金額そのものより、何を費用に含めたのかを固定することが重要です。
5.採用リードタイム|人材確保まで何日かかったか
採用リードタイムについても、全国共通の一つの計算式があるわけではありません。
本記事では、
採用リードタイム = 入社日 - 採用活動の起算日
とします。
たとえば、求人募集を2026年4月1日に正式開始し、入社日が6月15日なら、採用リードタイムは75日です。
ただし、「求人の社内承認日」「求人公開日」「応募受付開始日」「内定日」「入社日」のどこを起点・終点にするかで結果は変わります。
そのため、まず社内定義を固定してください。複数人の採用期間を見る場合、極端に長い案件の影響を確認するため、平均値に加えて中央値を見る方法もあります。
採用人数だけ達成しても人員課題が解決したとは限らない
採用KPIを見るときに注意したいのは、「予定人数を採用できた」だけでは人員問題が解決したとは限らないことです。
採用した人が短期間で離職すれば、再び欠員が発生します。採用単価だけを下げた結果、必要な職種・スキルの人材を確保できなければ、本来の人員課題は解決しません。
そのため採用KPIは、次に説明する離職・定着KPIまでつなげて見ることが重要です。
人件費を見るKPI
6.1人あたり年間人件費|平均して1人いくらかかっているか
1人あたり年間人件費は、本記事では次のように整理します。
1人あたり年間人件費 = 年間人件費総額 ÷ 期中平均人員数
年間人件費総額が6,000万円、期中平均人員数が10人なら、
6,000万円 ÷ 10人 = 600万円/人
です。
期中に人員数が大きく変わる会社では、期末人数だけを分母にすると実態からずれることがあります。そのため、本記事では社内管理用として期中平均人員数を使う例を示します。
また、「人件費」に何を含めるかも固定する必要があります。給与・賞与だけなのか、会社負担社会保険料や福利厚生費まで含めるのかによって数字は変わります。
社員1人の給与・賞与に会社負担の社会保険・労働保険等を加える考え方は、社員を1人雇うと会社はいくら負担する?年間人件費と必要売上の考え方で2026年度料率を使って詳しく計算しています。
7.人件費率|売上高に対して人件費をどれだけ使っているか
人件費率は、経営管理では次のような形で確認できます。
人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100
人件費6,000万円、売上高3億円なら、
6,000万円 ÷ 3億円 × 100 = 20%
です。
ただし、人件費率は低いほど良い指標ではありません。
人員を絞りすぎて売上機会を失っている会社、慢性的な人員不足で既存社員の負担が増えている会社では、人件費率が低くても経営状態が良いとは限りません。
人件費率と労働分配率を混同しない
人件費率と似た指標に労働分配率がありますが、分母が異なります。
経済産業省「企業活動基本調査」では、労働分配率を給与総額÷付加価値額×100、労働生産性を付加価値額÷常時従業者数として算出しています。
したがって、
- 人件費率:売上高に対する人件費負担を見る
- 労働分配率:生み出した付加価値を給与へどの程度配分しているかを見る
という違いがあります。
本記事ではKPI一覧としての違いまでにとどめ、労働分配率の詳細な適正水準・業界比較には踏み込みません。
離職・定着を見るKPI
離職率を外部統計と比較するときは、特に定義に注意が必要です。
厚生労働省は2026年8月31日、2025年(令和7年)雇用動向調査の年計を公表しました。e-Statでも2025年年計の結果表・年次別推移が同日更新され、産業、企業規模、性、就業形態、年齢、勤続期間等の表を確認できます。
一次資料:厚生労働省「最近公表の統計資料」/e-Stat「雇用動向調査」データセット一覧
本記事では、公表されたばかりの全国計をそのまま「目標離職率」として置くことはしません。離職率は産業、企業規模、年齢、就業形態等によって異なるため、外部比較を行う場合は、自社と比較条件が近い表を選ぶことを優先します。
8.離職率|人材流出を同じ定義で追う
厚生労働省「雇用動向調査」では、離職者を、調査対象期間中に事業所を退職・解雇された常用労働者等として定義しています。
また、年次別推移の「計」の離職率では、1月1日現在の常用労働者数を分母として扱っています。
一次資料:厚生労働省「雇用動向調査:用語の解説」/e-Stat「雇用動向調査」2025年年計・年次別推移
外部比較用の簡易式としては、
離職率 = 年間離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
と考えます。
1月1日時点の常用労働者数が100人、年間離職者数が12人なら、
12人 ÷ 100人 × 100 = 12.0%
です。
厚労省の離職率と比較するときは分母を合わせる
社内管理では、「離職者数÷期中平均人員数」など別の計算式を使うこともできます。
それ自体を否定する必要はありません。
ただし、その数字を厚生労働省の年次離職率と比較するなら、分母が違うため単純比較できません。
そのため、会社内では必要に応じて、
- 社内管理用離職率:自社が使いやすい定義で継続管理
- 外部比較用離職率:比較する公的統計と同じ定義に合わせる
の二つを分ける方法もあります。
2025年年計のe-Statでは、企業規模別、産業別、年齢階級別等の離職率や、勤続期間別の離職者数・構成比を確認できます。全国平均一つだけを見るより、自社の比較目的に合う表を選ぶ方が有用です。
9.早期定着率|同じ採用コホートを追う
採用した人が短期間で離職すると、採用充足率だけでは実態が見えません。
そこで本記事では、同じ時期に入社した集団を追跡する「早期定着率」を管理用KPIとして使います。
たとえば1年定着率なら、
1年定着率 = 同一採用コホートの1年後在籍者数 ÷ 同コホート入社人数 × 100
2025年4月~6月に10人が入社し、1年後に8人が在籍しているなら、
8人 ÷ 10人 × 100 = 80%
です。
この1年定着率は当サイトの管理用定義であり、公的な標準KPIではありません。
2025年雇用動向調査年計でも、勤続期間別の離職者数・構成比を確認できる表が公表されていますが、これは特定の採用コホートを1年間追跡する当サイトの定着率と同じ指標ではありません。
一次資料:e-Stat「雇用動向調査」2025年年計・勤続期間別離職者関連表
「3か月・6か月・1年」のどこを見るかは目的で変える
早期定着率を3か月、6か月、1年のどこで確認するかに全国共通の正解はありません。
たとえば、
- 入社直後のミスマッチを見たい:3か月
- 試用期間・初期育成後の定着を見たい:6か月
- 採用年度をまたいだ定着を見たい:1年
など、目的に合わせて確認時点を決めます。
重要なのは、毎年同じ定義・同じ期間で追うことです。
人への投資が成果につながったかを見るKPI
人員を確保し、採用し、定着させ、人件費を負担した後に確認したいのが、「その人への投資が会社の付加価値につながったか」です。
10.労働生産性|1人あたりどれだけ付加価値を生み出したか
経済産業省「企業活動基本調査」では、労働生産性を付加価値額÷常時従業者数として算出しています。
本記事では分かりやすく、
労働生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数
という形で考えます。
付加価値額1億2,000万円、従業員数20人なら、
1億2,000万円 ÷ 20人 = 600万円/人
です。
2026年版中小企業白書でも、労働生産性の向上を重要テーマとして扱い、従業員数が増えた場合には、従業員数の伸び率を上回る付加価値額の伸び率を実現することが生産性向上につながるという整理が示されています。
一次資料:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」
たとえば、増員前が、
- 付加価値額:1億円
- 従業員数:20人
なら、労働生産性は500万円/人です。
その後、
- 付加価値額:1億2,000万円
- 従業員数:22人
になれば、労働生産性は約545万円/人となり、約9%上昇します。
この例では人員数は10%増えていますが、付加価値額は20%増えているため、一人あたり付加価値額も増えています。
一人あたり売上と労働生産性は同じではない
「売上高÷従業員数」は、一人あたり売上高として分かりやすい指標です。
しかし、一人あたり売上高をそのまま労働生産性と呼ぶと、外部仕入・外注等の影響を区別できません。
たとえば売上1億円でも、仕入・外注に8,000万円かかる事業と、仕入・外注が少なく社内で高い付加価値を生む事業では意味が異なります。
そのため本記事では、
- 一人あたり売上高:簡便な経営指標
- 一人あたり付加価値額:労働生産性を見る代表的な指標
として区別します。
付加価値額の定義は資料によって違う
「付加価値額」という名称が同じでも、使用する統計・分析によって算定方法が異なる場合があります。
たとえば経済産業省「企業活動基本調査」では、付加価値額を、営業利益、減価償却費、給与総額、福利厚生費、動産・不動産賃借料、租税公課を合計する方法で整理しています。
したがって、公的統計と自社の労働生産性を比較する場合は、その統計がどのように付加価値額を計算しているかを確認してから比較することが重要です。
10個のKPIは一本の流れで見る
人事KPIは、10個を別々の数字として見るより、一本の流れとして見る方が経営判断につながります。
事業計画
↓
必要人員
↓
必要人員ギャップ・欠員率
↓
採用充足率・採用コスト・採用リードタイム
↓
離職率・早期定着率
↓
1人あたり年間人件費・人件費率
↓
労働生産性
↓
次年度の人員計画
最初に何人必要なのかを決め、必要な人員を採用し、その人が定着しているかを確認します。
そのうえで、人件費としていくら使い、結果として付加価値が増えたのかを見る。
そして、その結果を次年度の人員計画へ戻します。
この循環を作ることで、人事KPIを「人事部門の活動量」だけではなく、経営管理の数字として使いやすくなります。
1つのKPIだけ改善すると別の数字が悪化することもある
KPIは、一つだけを最適化しようとすると別の問題を生む場合があります。
| 一つの数字だけを追った例 | 起こり得る問題 |
|---|---|
| 採用コストを極端に下げる | 応募・採用が減り、欠員期間が長くなる |
| 採用充足率だけ上げる | 必要以上の採用やミスマッチが増える |
| 人件費率だけ下げる | 人員不足で売上機会を失う |
| 離職率だけ下げる | 必要な人材構成の入替えまで否定しかねない |
| 労働生産性だけ上げる | 短期的な人員削減によって将来の成長余力を失う場合がある |
したがって、KPIは「高いほど良い」「低いほど良い」と機械的に判断せず、他の指標とセットで確認します。
経営課題別に見るKPIを絞る
すべての会社が10KPIを同じ頻度で確認する必要はありません。
人員不足が課題の会社
- 必要人員ギャップ
- 欠員率
- 採用充足率
- 採用リードタイム
- 早期定着率
まず「何人不足しているか」を明確にし、採用できているか、採用まで何日かかるか、採った人が定着しているかをつなげて見ます。
採用コストが課題の会社
- 1人あたり採用コスト
- 採用充足率
- 採用リードタイム
- 早期定着率
採用単価だけを下げるのではなく、採用できた人数と入社後の定着まで含めて費用対効果を考えます。
離職が課題の会社
- 離職率
- 早期定着率
- 欠員率
- 1人あたり採用コスト
離職率が高いこと自体だけでなく、離職によってどの程度欠員が生じ、再採用にいくらかかっているかまで見ます。
人件費上昇が課題の会社
- 1人あたり年間人件費
- 人件費率
- 労働生産性
人件費が増えているかだけでなく、それ以上に付加価値を増やせているかを確認します。
生産性が課題の会社
- 労働生産性
- 1人あたり年間人件費
- 人件費率
- 必要人員ギャップ
生産性が低い理由が「人が多すぎる」だけとは限りません。必要人員に対して不足している場合、増員によってボトルネックが解消され、付加価値が増えることもあります。
KPIの目標値は業界平均だけで決めない
人事KPIでは「平均値」が検索されやすいですが、業界平均をそのまま自社の目標値にする必要はありません。
平均値は現在地を確認するベンチマーク
たとえば最新の2025年雇用動向調査年計では、産業、企業規模、就業形態、年齢等に分けた入職・離職データが公表されています。
こうした公的統計は、自社が同じ条件の会社と比べてどの位置にいるかを見る材料になります。
しかし、平均値に近づけること自体が経営目標ではありません。
自社の現在値を起点にする
目標値を決めるときは、まず自社の現在値を同じ定義で計算します。
たとえば現在の離職率が18%で、その結果として欠員が続き、採用費も増えているなら、「平均より高いか低いか」だけでなく、会社としてどの水準まで改善する必要があるのかを考えます。
経営目標と期限から逆算する
たとえば、
- 現在の離職率:18%
- 欠員が恒常化している
- 採用費が年間で増えている
- 2年間で離職率12%まで改善する
というように、経営上の問題と期限をセットにした方が、KPI目標として意味を持ちます。
定義を変えたら過去年との比較が難しくなる
KPIを継続管理するなら、途中で計算式を変えないことも重要です。
たとえば採用コストで、前年は広告費と紹介料だけ、今年は採用担当者の人件費も含めれば、数値が増えても実際に採用効率が悪化したのか、定義が変わっただけなのか分からなくなります。
定義を変更する必要がある場合は、変更時点を記録し、可能であれば過去値も新しい定義で再計算するか、単純比較できないことを明示します。
人事KPI管理でよくある5つの失敗
1.KPIを増やしすぎる
測れる数字を全部KPIにすると、重要な数字が埋もれます。
まず経営課題ごとに3~5個程度の重点指標から始め、必要に応じて補助指標を追加する方が運用しやすくなります。
2.分母・対象期間が毎回変わる
離職率や採用コストなど、分母・対象期間が変われば同じ名称でも別の数字になります。
KPI管理表とは別に「KPI定義表」を作り、計算方法を固定することをおすすめします。
3.業界平均をそのまま自社目標にする
同じ業界でも、会社規模、職種構成、雇用形態、成長段階、地域などで合理的な数値は変わります。
平均は「正解」ではなく、比較材料として使います。
4.1つのKPIだけ改善しようとする
採用コストだけを下げる、人件費率だけを下げる、離職率だけを下げるという管理では、別の数字を悪化させる可能性があります。
人員・採用・定着・人件費・生産性をつないで見ます。
5.人事KPIを財務・生産性とつなげない
採用人数、研修受講者数、面談実施率などの活動指標だけで終わると、経営側から見た成果が分かりにくくなります。
すべての人事施策を短期利益へ直接結び付ける必要はありませんが、少なくとも、人件費、欠員、離職、付加価値、生産性など、経営側の数字とどのようにつながるのかを考えておくことが重要です。
中小企業向け人事KPI管理表
人事KPIは専用システムがなくても、最初は表計算ソフト等で管理できます。
当サイトでは、まず次のような管理表をおすすめします。
| KPI | 現在値 | 目標値 | 前期 | 前年差・差 | 確認頻度 | 課題 | 次の行動 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 必要人員ギャップ | 2人 | 0人 | 3人 | ▲1人 | 月次 | 営業職不足 | 配置+採用 |
| 採用充足率 | 80% | 100% | 70% | +10pt | 月次 | 採用遅延 | チャネル見直し |
| 1年定着率 | 80% | 90% | 75% | +5pt | 四半期 | 初期離職 | 入社後支援確認 |
| 労働生産性 | 600万円 | 630万円 | 580万円 | +20万円 | 四半期 | 付加価値改善 | 業務改善 |
数値は説明例です。目標値の相場を示すものではありません。
KPI定義表も一緒に作る
管理表とは別に、次のような定義表を持っておくと、担当者が変わっても同じ数字を継続しやすくなります。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| KPI名 | 離職率、採用充足率など |
| 定義 | 何の状態を見る指標か |
| 計算式 | 具体的な算式 |
| 分子 | 何を数えるか |
| 分母 | 何を基準にするか |
| 対象者 | 全社員、正社員、特定職種等 |
| 対象期間 | 月次、四半期、年次等 |
| データ元 | 給与システム、ATS、人事台帳等 |
| 更新担当 | 誰が計算・確認するか |
| 定義変更履歴 | 変更した場合に記録 |
これは公的な標準様式ではなく、「人と経営の数字」が人事KPIを同じ定義で継続管理するために整理した簡易テンプレートです。
まとめ|人事KPIは「人を雇った結果」を経営へ戻すために使う
人事KPIは、採用人数や離職率を報告するためだけの数字ではありません。
本記事では、まず次の10指標を整理しました。
- 必要人員ギャップ
- 欠員率
- 採用充足率
- 1人あたり採用コスト
- 採用リードタイム
- 1人あたり年間人件費
- 人件費率
- 離職率
- 早期定着率
- 労働生産性
しかし、重要なのは10個を一覧で管理することではありません。
何人必要かを決め、必要な人を確保し、採用した人が定着し、その人件費に見合う付加価値を生み出せているかを確認し、その結果を次の人員計画へ戻す。
この循環を作ることが、人事KPIを経営数値として使う基本です。
採用人数を達成することだけが人事のゴールではありません。人を確保し、定着させ、その人への投資が会社の成果につながったかを確認するところまで見て、次の意思決定へつなげます。
最初から多くのKPIを導入する必要はありません。自社の経営課題を一つ決め、その課題に必要な3~5個のKPIから、定義を固定して追い始めるとよいでしょう。